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12月, 2021の投稿を表示しています

アンディーウィアー「プロジェクト・ヘイル・メアリー」Project Hail Mary by Andy Weir

[プロジェクトヘイルメアリーをこれから読む方へ] 早川書房の訳書上下巻(少なくとも電子版は。紙の方もたぶん)、冒頭に二葉「挿し絵」があります。それ、見ないように、読まないように。ネタバレだから。なるべく見ないようページをめくり、文章から、本文から読み始めることをお勧めします。 さて。以下の感想もヘイルメアリー及び三体三部作のネタバレです。  12月初めにツイッター経由で本書の存在を知り直ちに購入。アンディーウィアーの前作に惚れ込んだ身からすればこれが面白くないはずがない。そしてやっぱり面白かった。期待以上に面白かった。年末年始のお楽しみにしようと思っていたら面白さのあまり今日大晦日に、年内に読了してしまった。 来年、これを超える作品に出会えるのか? はなはだ疑問だ。 もちろん今年度最高傑作。死神永生を超えた。死神永生に圧倒されながらもなにかしら物足りなさを、胸のつかえを感じていたその胸のつかえを一気に洗い流してくれる快作。そう、快作。こころよいのだ。心地よいのだ。爽やかな感動。 終章に至るまでの科学的ギミックをなにひとつ理解できなかった者でも、ただ読み通す膂力さえあればこの感動にたどり着けるはずだ。だってこれは友情の、人情の物語。12光年を股にかけた男の熱い浪花節だから。 黒暗森林で俺達はこの宇宙の現実を叩き込まれた。渡る宇宙は鬼ばかりだと。ともかく誰かが、何かがいたら、考えるな、すぐに引き金を引けと。その殺伐とした宇宙の公理を超克する大団円の展開があるかと期待した我々が死神永生で見たものは……これ以上は語るまい。 そう、プロジェクトヘイルメアリーは「三体」へのアンサーソングなのだ。俺たちには絶望しかないのか? 俺たちはただ生きんがために屠り合うしかないのか? 相手の技術爆発を恐れ猜疑連鎖の地獄を彷徨うしかないのか? アンディーウィアーはひとつの回答を示した。黒暗森林理論を無効にする超理論、新理論。それは友情だと。人の情けだと。 甘ったるい砂糖菓子のような結論か? しかし作者の筆致はそれを十全に説得力ある形で俺たちに叩き込んでくれた。溢れる感動と共に。 この師走に丸々一ヶ月かけて俺は12光年を亜光速で旅し、ウィアーの結論を身を持って体感したのだ。 ウィアーは決して現実から目を逸らして夢ばかり見ているわけではない。ストラット(彼女は面壁者の地位を獲得できたト
 
 

アイザックアシモフ「はだかの太陽〔新訳版〕」

  先行する著作の続編であるらしいことは読み出してから気づいた。世界設定の基本情報はまずそれを踏まえておいた方がよかったらしい。 アシモフのロボットシリーズはこういう順番らしい。 鋼鉄都市 はだかの太陽 夜明けのロボット ロボットと帝国 この四冊を読み終えれば俺は帝国の続きを読んでいいことになるのだよね? もしかしてその理解も間違ってる? ともかくそういう目的で本書を読み始めたのだが、事前に仕入れた情報通りだったね。帝国三部作の鮮やかさ、天才の閃きに引き換え……やはり精彩を欠くことは否めない。 ロボット三原則が話の核でありキーであり世界設定の根幹なのだが……そもそもその土台自体が堅固でないからどうしてもお話全体がツッコミどころ満載にふわふわしてしまう。 ローカルルールというか社是というかゲームというかプログラムというか。「ロボットをそういう規則で運用することにしました」と誰かが決めた、それを社会体で共有した、というだけのことであって、「ロボットであるからにはそう動くはずだ!」と自然法則であるかのように考えるのはおかしいのだが。プログラムでそう仕込んだり故障なり事故なりでロボがひとをあやめる傷つけるということは常識的に考えればいくらでもフツーにあり得るのだが。 アシモフくらいの頭のいいひとがそういうことに気づかないはずはないので、作者本人「なんか弱いよなー、説得力ねーなー」と思いながら筆を進めた、そういう感触こそがむしろよく伝わってきてなかなか苦しい読書だった。それが証拠にこの小説、いきなり作者本人の言い訳めいた序文から始まる。「ロボットシリーズはもうこんくらいでいーかって切り上げたかったんだけど、編集さんに懇願されてねー」。 主人公のデカなんたらベイリがいきなりもう吐き気のするような差別主義者で読むのがやんなったのだが、ニューヨーカーのアシュケナジであるアシモフが深南部のレッドネック、ホワイトトラッシュ気質であるはずもなく、これは作者のシャドウというか願望というか正反対というか、こういうマッチョな主人公にせめて想像の世界ではなってみたかったんだろう(帝国で常に社会の指導者となっていたのだからまあ怪しむに足りない)。人間が下等なロボごときに負けるはずがないとイキる粗野な行動派のデカであればあるほど、なるほど、温厚篤実なのに妻子とうまくいかなくて別居離婚の羽目になる