アマプラで観た。とてもよかった(原作は未読)。 自然、農村風景、握り合った手が「不穏」しか予感させない。その張り詰めた、切れるほど美しい美術に圧倒された。 マルチバース物としてはこれに先立って観たエブエブよりずっといい。 藤野が人生で初めて反省、悔悟した瞬間時空に歪みが生じ京本の四コマがスリットから藤野に届く。それは藤野が京本を救う世界線の実在を約束する四コマだ。 その幸福な世界線と悲劇の起きた世界線はけして交わらない。明るい未来に踏み出していた京本はけして生きて還らない。しかし、そうでない世界がある。交わらずともある。なぜあるか? 藤野が心からの反省をしたから。悪意に満ちた軽薄な紙片を嫌悪とともに破り捨てたから。調子乗りのエゴイスト、なんの役にも立たない自分を心底嫌悪したから。その後悔が、別の世界線を生んだ。 そんなの意味ないじゃん? ある。このルックバックという作品が実際そのように機能しているからだ。大丈夫、自信を持て。その才能を伸ばせ。君にはできる。こうしたい、こうなりたいという方向に一歩を踏み出す勇気を持て。君の未来は明るい。そのメッセージを受け取った読者は、そうでなかった人生と別の世界線を確実に歩み始めるのだ。 このエールを伝うるに現代思想の豊富な参照、援用など必要ない。ただそこに藤本の素朴な誠実だけがあればいい。倫理と物理が交わる瞬間を藤本はシンプルに描いている。これは正義の物語なのだ。