アマプラでいま頃観た。面白過ぎる! え、なに、そいつ許しちゃうの? だめだよ。いくら小物だからって甘いなあ。あ、また見逃した。とこちらのフラストレーションを高めておいて「そう急くな」と。「はいはい、動かないでー。縛っちゃうよー。どんどん縛っちゃうよー」キコキコキコ。縛っちゃうおじさんの情け容赦ない仕置きに俺達は拍手喝采だよ! この絶妙な焦らし(俺らを焦らしてたわけじゃなくて泳がしてただけ。ただ、この時点で先様の電番、名前見れば追跡完了、映画は20分で終わるんだがそこはほら。ね)。 途中で出てくる「現職」がまあ、完全に「怪人・ハチ女」。「ケケケケケケケケ、死ね、みんな死ね!」。ここまでケレン味たっぷりとはいえリアリティーも保っていた演出なだけに、その衝撃、笑撃ったらなかった。俺は自室で観ていたからもちろん声出して大爆笑だよ。突然特撮ヒーロー物に突入するのだ(ラストにも黄色怪人義足男爵が出てくる。このひと、撃たれても死なない)。そしてこのハチ女、登場から二分経たずハチミツの瓶を頭に受けてそのまま燃える。この笑撃! 「もういいじゃないか。なんのために戦う?」「正義のためだ」。堂々と語られる主人公のモチーフ、作品のテーマ。これだよ。俺達の観たかった「悪と戦う男の物語」(©浦沢直樹)だよ! 円盤の発売が待ち遠しい。2025年の後半、はおろか、俺の余生はこればっか繰り返し観ることで終わるだろう。わが生涯に一片の悔いなし!
アマプラで観た。とてもよかった(原作は未読)。 自然、農村風景、握り合った手が「不穏」しか予感させない。その張り詰めた、切れるほど美しい美術に圧倒された。 マルチバース物としてはこれに先立って観たエブエブよりずっといい。 藤野が人生で初めて反省、悔悟した瞬間時空に歪みが生じ京本の四コマがスリットから藤野に届く。それは藤野が京本を救う世界線の実在を約束する四コマだ。 その幸福な世界線と悲劇の起きた世界線はけして交わらない。明るい未来に踏み出していた京本はけして生きて還らない。しかし、そうでない世界がある。交わらずともある。なぜあるか? 藤野が心からの反省をしたから。悪意に満ちた軽薄な紙片を嫌悪とともに破り捨てたから。調子乗りのエゴイスト、なんの役にも立たない自分を心底嫌悪したから。その後悔が、別の世界線を生んだ。 そんなの意味ないじゃん? ある。このルックバックという作品が実際そのように機能しているからだ。大丈夫、自信を持て。その才能を伸ばせ。君にはできる。こうしたい、こうなりたいという方向に一歩を踏み出す勇気を持て。君の未来は明るい。そのメッセージを受け取った読者は、そうでなかった人生と別の世界線を確実に歩み始めるのだ。 このエールを伝うるに現代思想の豊富な参照、援用など必要ない。ただそこに藤本の素朴な誠実だけがあればいい。倫理と物理が交わる瞬間を藤本はシンプルに描いている。これは正義の物語なのだ。