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「ウォッチメン」Watchmen, 2009.

 ブルーレイが安かったので買って観た(いま頃)。

なかなかに震撼した。

映画の構成は「正解」としか言いようがない。冗長な説明セリフがないから最初はどういう世界なのか把握できないが、心配しなくてもただずっと観ているだけで玉ねぎの皮を剥くように少しずつわかっていく親切設計。

しっかりしたストーリーラインを備えていながら、「ウォッチメン、という言葉をモチーフとする映像詩」の性格も併せ持っている。

長大な映画だ。俺は30分ずつくらいちびちび観たからいいけど、これを小屋で一気に観た人々の存在がちょっと信じられない。俺には無理だ。痔ではないけど尻が爆発する。

「この変なアニメ要る? 省いちゃえばだいぶ短くならない?」と思ったが決して無駄な寄り道ではなかったことが結末で判明する。恐怖に呑まれて自滅する話なのだ。

あのイケメンの天才くんの会社も南極基地もその意匠は意図的に「鉄とガラスの水晶宮」であり、この原作者は明らかにドストエフスキイに淫している。ヒーローアクションの器で「大審問官」をやろうとしているのだ(極寒のクリスタルパレスにいるマントの彼はスーパーマンだし実家の太い秘密基地の彼はバットマンだ)。

少数の優れた者(党幹部。超人)が世界管理の重責、批難、欺瞞、嘘をすべて引き受け、残余の人類にパンとサーカスを保証する。カラマーゾフの短い挿話は梗概そのような話らしいのだが(俺も読んだけど文字が脳をすべって意味を結ばなかった)まさにその映像化がここに実現している。

埴谷雄高は「唯見る人」(ただみるひと)という小説を構想したが果たせず、また、「死靈」は当初「筒袖の健坊」を主人公にした「暴力をその果てまで貫徹した場合をリミッターをかけず夢想する思考実験」(埴谷雄高版コマンドー)として書き始めたらしいのだが、ウォッチメン(唯見る人)はまさにその二つともを映像化することに成功している。ということは、かつて文豪の夢想した三つの文学作品がここにマージしている。

賞賛を書き連ねたが疑問、不満もある。おおこれは、ダークナイトなど遥かに凌駕する重厚な作品ではないかと興奮気味に観たのであるが、結局最後はインテリ、リベラリズムへの嫌がらせ(中学生大好きトロッコ問題)なのかと。工夫を凝らしたしつらえではあったが、冷静に考えてみればその奸計において仲間を欺くこと、殺害することまで必須であったのか。

ドストエフスキイに淫しているということは文学の深みであると同時に良識、進歩(=ピースマーク)に対する逆張り、冷笑、絡み酒でもある。

ちんぽ星人(星人じゃないけど)の造形には唖然とした。単なるはだかのおっさんやん!

コメディアンのレイプ、モテモテちんぽ星人が調子乗る様子とかが実に生っぽくてよかった。この自警団の動因が「有害な男らしさ」そのものであることを見事に剔抉しているからだ。

国に要請されるままベトナムを蹂躙する姿は圧巻である。彼らヒーローはつまり徴兵されたアメリカ人男性の象徴に他ならない(バットマンもどき氏が一旦暴れないとエレクチオンしないのは心に深手を負った復員兵だから)。

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