ベッカムのエピソード、の意味を考えてみる。
ヒロイズムなど許されない世界、の謂いかなあ、と思う。
自身の正義感から起こしたアクションはなにひとつ実を結ばず、挙げ句部下は殺されかけ、自身の勘違いまで明らかになる。
何も考えず、命令されたことだけやってりゃいいんだ、が正解の世界。それ以外に正解のない世界。
得るところもあるよ、という軍医殿の言は正しかった。兵士は前線に出ることで、前線になど出るもんじゃない、何も得るところはない、という現実を身をもって知るのだ。軍医殿はそれを本当に知る間もなく肉体を四散させた。
あと何日、のテロップは伏線であった。映画的予想をすべて裏切る展開。芽生えかけた部隊の友情は崩壊し、サンボーンは任務継続の意思を阻喪し、ジェイムズはひとりのヴィクティムを救う映画的クライマックスを許されない。
彼らは確かに成長する。余計なことを考えず、成果が出なくても気に病まず、ただ任務を毎日言われたままにこなしていく兵士たることが成長であると理解する。
「365日」の文字はほぼエターナルと、救いなき戦場の絶望と等価である。
「大事なものは、ただひとつのことだけになる」。「誰かがやらなきゃいけないんだ」。
ジェイムズが到達した永遠の労働の境地。それはまた、こういう世界を好んで描くビグローの内面、その投影であるに違いない。
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