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ゼログラヴィティー



 ことしの最高傑作なんじゃないですか? これ。いや、ことしリリースの映画全部観たわけじゃないけどさあ。
 良かった。すごく良かった。
 なにいまどきサンドラブロック主演て。スリーディーて。と、なにか先入見で侮って観たのでまた意外な大傑作感は強かったです。あなどってごめんなさい。
 トウの立ったサンドラブロックだけど、トウの立ったサンドラブロックだからこそこの映画にふさわしいのでした。なぜそうかは観ればわかる。
 こどもがいてもおかしくない、若さが多少衰えた女性だからこそ主演を張れる映画があるのだ。

 グラヴィティー表現はもちろん脚本がなにより素晴らしい。完全無欠と言っていい船長。この人物の造型に成功したことは大きい。
 完全無欠とは、コンピューターのような謹厳実直冷酷無比を表すものでないことは映画を観ればわかる。つまり監督アルフォンソキュアロンの人間観はキューブリックの平板なそれを凌駕しているのだ。完全=冷血=残忍という、完全知性への凡庸な想像力はここに見事に粉砕されている。
 あんな人間いないよ。なれるもんじゃないよ。ユーモアとウィット、他愛において常凡の届かぬところにいる。でもそういう、情緒においても超人、そんなキャラクターを敢えて造形したことが新しいのだ。

 音効の演出もいいね。あの有音、無音の使い分け。サントラのスコアも素晴らしい。
 90分でスパッと終わるのもいいね。グダグダと長引かせない。必要な描写だけでタイトにまとめている。
 人間とは? 重力に抗して立ち上がるものだ。メッセージをストレートに示してパシンと終わる。もうこの映画完璧だよ。秘宝ベスト号で絶賛の嵐だったのに俺も納得しました。

 重力描写に瑕疵があると秘宝評で複数指摘があったが、俺にはどこがそうなのかちょっとわかりませんでした。
(2015年4月追記:いま頃気づいた。船長と彼女と宇宙ステーション、重力条件において三者は完全に等価なはずなんだよね。宇宙ステーションだけ糊で宇宙に貼っ付けられて人間ふたりだけ地球に引っ張られてるって、そういう描写はおかしいわけです。紐で一旦は離散を防げたわけだから。三者は三者ともが地球に限りなく落ち続けている。自由落下状態にある。
 結構キモになるシーンなのに重大な瑕疵があるのは痛い。)
 クライマックスの大気圏突入、凄かった。美しかった。ハッタリと虚仮威しのスターゲイトなんて、この生きるか死ぬかのシーケンスの前には霞んで見える。どうでもいいよ、人類の超人類への進化なんて。

 消火の際しくじったのが見事に伏線になってた。考えさせるよね。失敗は失敗じゃない。それどころか、絶望を打開する唯一の希望にすらなり得るのだ。

 船長の人物造形、「クラリスのカウンセリングをするレクター博士」もたぶん明らかに意識してる。と思う。そうだ。船長、「超人」入ってるのだ。
 彼女の飛行士志願が自殺願望、とまでは行かずとも希薄な生存意志から来ていることを船長は見抜いていただろう。そしてそれを見抜けるのは、彼女と同じものを彼が抱えていたからではないか。彼女以上の絶望と自棄を、楽天的に見える彼が。



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