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インターステラー



 あー。ねー。

 あのさあ。

 そこはもう時空を超えた、いわばなんでもあり、なんでもできる空間なわけでしょ?

 なんでモールス信号なのよ。直接口でいうとかさあ。文書データ直に送るとかさあ。
 なんでモールス信号はありなのよ。他の方法は封じられてて。

 いやそもそもその高次元存在(あれでしょ? 文脈から察するに高度に進化した未来人なんでしょ? 平たくいやあまあ神様みてえなもんでしょ?)、迂遠な方法取らないで直に救ってあげればいいじゃん。なんで風吹かして桶屋儲けさせる作戦取るのよ。

 ってなことを、「インターステラ良かったー」言ってるひとたちに口酸っぱく説いても、おそらくはまったく通じねえんだろうなあ。

 * * *

 公開時タイムライン上で「絶対観ろ! いますぐ映画館行け」みたいなツイート見かけたから相当に期待したんだけどなあ。いや、レンタルで済ましてほんとよかった。映画館行ってこれ三時間見せられたらさあ、怒り収まんないよほんと。
 割と所説を信頼してたひとのツイートだったからさあ。「あんたこんなもん激賞すんのか!? その程度のひとか!」っていうのがまたショックでねえ。映画がひどかったことよりも。

 ダークナイトライジーズ観たとき思ったのは「家から一歩も外出たことないひと、切符の買い方知らないひとが想像した天下国家、この世の仕組み」みたいなことなんだけど、本作でますますその印象は強まった。分数の計算できないひとが相対性理論だ重力だブラックホールだ振り回してる。そんな感じ。
 あのね。まずは分数の計算できるようにして。おとなの話に首突っ込むのはそういうのできてから。
 ノーランの学歴コンプレックスみたいなものは相当なもんと俺はみたね。
 勉強はしたんでしょ。頑張ってそういう本を読んだんでしょう。読書は万人に開かれてるから。理解の保証は別として。
「事象の地平線」とか「潮汐力」とか「重力が時間の進みに影響する」とか、そういう文言は頭に残ったんでしょ。理解は別として。そして、見事に映像化されている。そのまんま。ほんとに地平線として。ほんとに大津波として。そしてもちろん映画スタッフにたぶんいないのである。「いや、そういう意味じゃなくて……」と監督に突っ込んでくれる科学アドヴァイザーは。
 重力三割増しだから一時間が地球の七年に相当っておかしいだろ。木星土星太陽表面えらいことなるじゃん。計算異常に間違ってるだろ。
 ブラックホール近傍だからとかって逃げ道作ってんのかもしれないけど、そんな惑星危なっかしくて住めないって。当然ブラックホール中心に高速回転で落下防いでんだよねえ(ありえないけど)。じゃあその惑星照らしてる太陽どこの太陽?
 雲も凍るくらい寒い星、ってこと言いたかったんだろうけど、あの、そんなの地球でも起こってますから。んでそんな成長する前に落ちますから、下に(雨って言います)。そういうこと思わない? 重力だなんだ抜かしてるくせに。
 つながってんだよこれ。相対性理論だブラックホールだ並べ立てることと。ガッコに親呼び出されることと。

 もちろん「ほんとはなにもわかってません僕」という自覚がないはずがなく、その日々粉砕される自尊心の補償行為が筋立てに明快に伺われる。
 科学者とかっていう連中はアタマいいかしんないけどほら、人情とかはものすごく薄くて、自分のことしか考えてないし平気で嘘つくし人殺しだし。
 おなごのくせに科学者だなんて威張ってっけど、結局は男のちんぽさ忘れられねえんだろキヒヒヒヒヒヒ。
 吉田佐吉宇宙へ行く、そんな感じの下品な脚本でしたね。隠しても漏出するインテリ憎悪、大衆迎合。演歌。浪曲。
 ノーラン作品に対するエモーショナルな共感。大衆の集合無意識。それを理解する補助線の役割はあるのかもしれない。この三時間もある無駄に長い作品には。
 自他に対する不全感を裏返したとき、そこに万能の悪、ジョーカーの像ができあがる。「人生を奪われた」と感ずる人々が渇仰する。
 だからこの映画に唯一ある突出した凄みは「彼」だよね。どういう理由かわからないけど女房子供の受診を許さない家庭内暴君。合理と非合理、選択肢を提示すると躊躇なく非合理を選択するレッドネック。
 彼は影の主人公、父親のシャドウなんだよね。
 進みたい道がぼんやりとはあったのに「人類のために(≒家のために)」進学を断念、農業に黙々と従事していたら妹はいつのまにかインテリとして大出世。軋む日常。静かに進行する狂気。そういう、アメリカ深南部プアホワイトのルサンチマンに巧まず寄り添えるところがノーランの真骨頂、ポピュラリティーの理由なのかもしれない。

 目が覚めたら救国の英雄で家のレプリカ記念館なってるって、いかにもドキュンの夢。安い夢だなあおい。
「でも俺は満足しちゃいないぜ。真夜中、エックスファイターに乗って旅に出るのさ。銀河の大海原へ。愛する女を取り戻すために」。これね。このあったま悪そーなナルシシズム。浪花節。リアルに翻案すると逃げた女房の所在を執念で探し当てて無理矢理連れ戻す暴力ストーカー夫のメンタリティー。

 ピーピーうるせえガキと回転重力つくった直後に寝ちまう(仰臥は地上で実現できる無重力に近い姿勢。宇宙滞在同様カルシウムが溶け出す)最初の三十分でもううんざりしてたし十分に見切りはついてた映画なんだけど。一応文句言う権利確保するために我慢して最後まで観ました。ともかく終始一貫、すべてのシーンがひどいね。
 打ち上げ施設で重力制御(どうそうなのか画面からわからなかったが)できてんなら凄い発見、技術だしもうとうに統一理論に到達してるレベルだし。推進剤だの回転重力だのに頼る必要ないし。
 土星軌道にステーション? 地球近傍に作れよ。っていうか、そんなことできてる時点でもう問題解決だし。星間移住必要ないし。
 つかそういうことするため大統一理論必要? いらないでしょ、たかがコロニーづくりに。宇宙の究極の謎。
 オニールの計画って「既知のテクノロジーで実現可能。あとは費用の問題」がキモだったんじゃない? 別に統一理論解く必要はないよねえ。
 そのエネルギー、砂嵐対策に使えよ。統一理論解くよっかずっと簡単なはずだけど。
 んでもって何十年か経ってるのに事態あんま悪化してないし。
 大体さ、あのモールス信号でもたらされた知見はなにを解決しどう人類の危機打開に活かされたの? その説明すっとばしじゃん。
 終盤、人類総体は結局どこでどう暮らしてるの? 地球? コロニー? 新惑星?
 マン博士はどこに逃げてどう生きるつもりだったのか。
 最初の十人全員に人類の種持たせりゃいい話じゃん。どっかで花咲けばいいって。それだけの話じゃん。だまして追加の四人部隊送り込む意味がさっぱりわからない。つうか意味がない。
 種持ってくのはいいけどそれどうやって孵化させるつもりだったの?
 っていう文句際限なくつけられるけど虚しいよね。話最初からおかしいんだから。成立しないんだから。
 科学的なアレはほら全部ネグレクトして、大事なのはヒューマンドラマの部分でしょ、と譲歩したにしても、こんなんでよく泣けるね。感動できるね。馬鹿娘(これがまたぶっさいくなガキなんだ)時代はおろかおとなになってまでとうちゃんどこさ行ったあだしさ置いてあだしのことかわいくなかったんだべさピーピーピーピー泣きわめく馬鹿女。大作戦成功させてCIAのトップエージェントに登りつめたチャスティンのキャリア台無し。
 買って買って買ってーって床転がってギャン泣き、手足バタバタ駄々こねりゃ家族愛ですか。簡単なもんだよなあ。世界は愛に満ち溢れてらあ。
「エウレカー!」叫んで論文ばら撒く姿がまたなんか腹立つ。ノーランの「ぼくの考えた天才科学者」像丸出しで。AO入試経由厚化粧目立ちたがり女を思い出す。大衆の好む天才科学者像ってなんでこういう感じに収斂すんの?

 劇伴がまたうるさいんだよね。マン博士ドッキングシーン(なんでハッチ開放と同時に大爆発? どういうメカニズム?)とかブラックホール図書館畑燃えシーン(なに言ってんのか観てないひとにはさっぱりわかんないだろうけどそういう頭おかしいシーンがあんのよw)とかなにもう。ぐずぐずモタモタ。長時間引っ張ってジャーンジャーンジャンカジャンカズンドコズンドンドーン、バーンバーン「うるせー!」ってなるよね。なんだあの演出? バカ丸出し。感動の強要夥しい。逆にカの字もできねえ。
 あそこまた「全宇宙共通絶対時間ユニバーサルタイム」みたいのがあって「ちょうどその時地球では!」みたいなことなっててねえ。もうね。相対性とか口にしないでくれと。
 「ラザロか……」とかちょっちょっちょっちょ、聞こえよがしにそういうの挟まなくていいから。ほんとバカに見えるから。見えるんじゃなくてほんとそうなのはもうわかってるから。押井みたいだから。もう頼むから。
 ノーランよ。バカでも無学でもいいからカッコつけだけはやめてくれと。そういうのがいちばんカッコ悪いからと。頭悪くても胸張って生きてる人間はたくさんいると。それをバカにする者がいたらその時こそ怒れと。鬱屈したルサンチマンはそういうものにこそ向けよと。
 それこそ小一時間どころか3時間ノーランに説教したくなるよ。もちろんノーランは正座。

 音楽のみならずセリフもギャーギャーぴーぴー無駄に叫んでたよねえ。学芸会ですか。
 愛の演説、最悪。んでそれに感動しちゃってる観客。アホですか。

 でもねえ、結局負けてんのは俺の方なんだよねえ。大衆の支持得ちまえば映画は勝ちでしょ。そういう商売なんだから。「科学的素養のないひとには敷居高いかも」なんていう評言を見つけちまった日にゃあ。もう完敗ですよ。


追記:悪評もちゃんと存在していた。腹立ててたの俺だけじゃなかった。ひと安心。

映画『インターステラー』酷評まとめ

 どれも正鵠を得た批評です。

 まあね。別に怒るこっちゃない。もうノーラン印のもの目にしなければいいだけで。




コメント

  1. 初めて投稿します。今更ですが大変共感しました。評判に期待してレンタルしたのですが映像的な面白さは有りましたが、あの馬鹿娘の演出には本当に参りました。観終わった後の感情は怒りでした。馬鹿にするなと。物理学的な素養は凡人以下ですので此方のような鋭い批判は出来ませんが、小奇麗なCG以外安っぽい取ってつけたような映画を激賞する人が多いのが不思議です。

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  2. コメントありがとうございます。ガキ、うるせえっすよね。
    自分長々いちゃもんつけてますけど、いま思うにSF考証がひどいとかそういうこっちゃないんですよねこの映画は。科学的にデタラメでもいい作品はたくさんある。
    人格批判はいけない、という言い方がありますが、ノーランの場合もう人格批判以外するところがないんじゃないかというw
    記事で貼ったリンクに「松本人志の世界観に近い」という評言がありますが、「確かに、似てっとこ多いよな」と感心しました。勉強もせず本も読まず地頭の良さだけでもてはやされた者の悲劇。

    返信削除

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