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アンディーウィアー「アルテミス」

「Martian(火星人)」を読んでアンディーウィアーの大ファンになったはずなのに、昨年末のヘイルメアリー騒ぎで初めて二作目の存在に気づいた俺。遅まきながら読んだ次第。


んー。駄ー目だー。
作品構成は同じなのである。火星人とヘイルメアリーが大まかに同じであるように。閉鎖空間。空気。エアロック。トリビアルな科学&サブカル知識。友情。献身。だが、感動が欠けている。面白さも。最初から最後までひとつも面白くない。読み進む喜びがない。主人公にひとつも共感できないから。
訳書あとがきにあるようにプロットが当初予定から変わったらしい。脇役だったはずの少女が大抜擢。それが大失敗につながっている。
作者アンディーウィアーは明らかにスヴォボダなわけですよ。ナードでギークな研究者。一作目と三作目は見事に語り手と演じ手が一致してる。読者の僕らも。で、ジャズと共鳴できる女子がこういう書物を手に取るか? って話なんですよ。
なお、これは偶然ではありません。 この場所が盲点だから、外殻のこの位置を選んだのです。

なんでですます? ウィアーが「お股のゆるい半グレ色惚け女子」を演ずる無理に加えて翻訳も悪い。普通に「偶然ではない」「選んだのだ」でいいじゃん。「選んだの」でもいいよね。文体のチョイスにおいてなにかセンスが古臭くなおかつ中途半端にナウくしようとしてるのがまた逆にイタい。それが翻訳者と編集者、どちらの責に帰するものかはわからないけれども。

欲が出たんだろうね。想像だけど。ウィアーではなく、出版社エージェントその他有象無象の。「このボンクラ、カネになる! 金の卵を産むガチョウだ!」と知って急に十倍百倍に増えたお友達の。

アルテミスは明らかに売れる映画を、映画化を狙ってる。でも俺なんかから見れば12チャンもとい午後ローでかかる低予算のつまらない映画の方だよこれは。

「おまえ、マジか?」デイルが言った。「こんなときに自慢話する気か?」

デイルにこう言わせているのはウィアーだ。つまり作者自身もジャズがウザくてムカつく(失態を重ねた張本人が「みんな、いまこそ街を守るため立ち上がる時よ」と演説までぶち始める)メンヘラ馬鹿女であるとわかっている。書いててもう途中でやんなってたんじゃないだろうか。でも周囲は「こういうのがヤングに、若い女の子にウケるのよ」と。いや俺の想像だけれども。

だが思う。本作での大失敗で、ウィアーは本然の道に回帰できたんではないだろうかと。彼本来の、彼自身の似姿で書く。大傑作プロジェクトヘイルメアリーの露払いとして機能したのであればこの退屈な小説が書かれた意味も決してなくはない。

いい場面もある。追い込まれて無理を重ねて疲労困憊したジャズがスヴォボダを頼って就寝、入浴、食事する件り。貧して鈍して思考作戦行動すべておかしくなってたジャズがようやく落ち着きを取り戻す。このシーケンス、ヘイルメアリーでそっくりそのまま再登場する。疲れたまま行動するな。荒れた生活をするな。ともかくなんか口に入れろ。作者が僕らに教えてくれる単純にして重要な教訓である。


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