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孤独のグルメ

 巻末の「初出」を見て驚いた。1994年10月! 全然知らなかった。俺完全浦島次郎だ。世間から18年隔絶してる。
 94年暮れといえば漫画史においてナウシカ黄金の7巻、寄生獣第8巻という頂点ともいうべき大傑作が刊行され、しかもその両方が翌年の「カルト集団がらみの無差別大量殺戮」をイメージのレベルで予知していたという奇怪な現象を残した時期だ。
 そしてこの時期、谷口ジローといえば漱石シリーズで注目されていたのではなかったか。同時にこういう仕事もしていたなんて、全然知らなかった。

 トレンチコートにソフト帽。「夜行」のハードボイルド、ハンフリーボガードな主人公を谷口ジローに描かせるというのは発想として極めて順当で、ただその仕事、久住昌之原作の仕事を谷口ジローが請けたということでたぶん業界は騒然としたのではないかと想像する。

 先週テレビドラマを初めて観たときは「外回りの営業マン」とか勝手に思っていたのだが、どうやらそうではなく個人輸入の無店舗販売業者。現代のハードボイルドは探偵ではなくこういう地点に成立するのか。
 めし食ってるだけの漫画、と見えて、回を追う毎にゴローさんの過去が、人物が小出しに見えてくるのが楽しい。そして、たぶん設定として10つくりこんであっただろうそれが3も露見しないままひとまず連載完結。この見せ切らない、謎を多く残したままなのがまたいい。
 各話も映画館でフィルム事故が起こるかのようにブツンと余韻も何も残さずにぶった切られる感じがまたいい。これ、意図した演出であると思う。変にまとめたりしない。シャッターで情景を切り取ってそのまんまな感じ。写真の感じ。
「オレ、植草タカシ! どこにでもいる平凡な高校2年生。ところがある日、不思議な少女と出合った瞬間から、俺の生活はすっかり変わってしまった……」という出だしの少年漫画は今後一切商業漫画誌での連載を業界申し合わせで禁止するカルテルを結ぶといいと思う。冒頭で何もかも語って「ああ、中身わかった。もう読まなくていいのね」と読者に教えてくれる親切な漫画はこの世から消滅するといいと思う。

 なんとかいうハンバーグ定食屋でゴローさんついに堪忍袋の緒が切れ、の場面はクライマックス。日頃抱懐していた食事哲学をたぶん初めて人前で宣明する。パルプフィクション、サミュエルLジャクソンファミレス大演説に匹敵する名シーンである。
 大衆の愚劣な神格化と訣別した姿勢がまたいい。大衆、アプリオリに善なり。そういう思考停止こそが庶民に対する最大の侮蔑であるということを、作り手は当然の常識として身に着けている。

 散見する情報からするとたぶんまたどっかで連載再開してるんでしょう? 続きの刊行が楽しみである。

 ドラマのあまりの面白さにキンドル版を勢いで買ってしまったけど、どうも失敗したようだ。iPad (Retina, late 2012) で、見開きで読めばシャープに、紙レベルに精細に見えるのだけどこれだとネームが小さすぎて読みづらい。しかし1頁単位だと今度はフォーカスが甘い。レティナ解像度(2048×1536)を10とすると、9まで頑張ってあと10%なのに、って感じの甘さだ。
 あとトーンにモアレが出てますね。顕著に。汚く見える。それがレティナの格子との干渉縞なのか、それとも既にスキャン段階で生じた、デジタル化に伴う必然的な干渉縞(量子の再量子化)なのか、どちらかはわからないけれど。
 実体書籍のほうも買ってしまうだろうなあ。谷口先生の画業だもの。そのくらいの価値は当然ある。

 wiki末尾の記述に大爆笑してしまった。
「久住によれば、長嶋一茂を主演としたドラマ化のオファーがあったものの、断ったという。」
 そりゃそうだ。

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