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「行人」 夏目漱石、1913年。

「僕は勉強ばかりしてきたので普通のひとたちとはうまく付き合えません。そういうことを周囲のみなさんは理解し、僕にやさしく接してくれなければいけないのです」。成人男子が口にしていいセリフだとは思えないのだが、当時のインテリたちには好意を持って迎えられたのかもしれない。「よくぞ言ってくれました」「僕達の気持ちを代弁してくれるのはやはり漱石先生だけだ!」と。
坊っちゃんとかいう作品を書いたのもむべなるかなである。
嫂(あによめ)をはじめとする女性たちは大衆を象徴し、「兄」は明治の知識人を代表しているのだろうか。
なんだ? 明治の知識人って。維新に、国に、官学に、国費留学に甘やかされたボンボンどものことか?
自己戯画化であるならまだしも、これが漱石の本音なら「甘ったれるな」としか言いようがない。
女がほしい、結婚したいという欲望を強く持ちながらその周旋、斡旋を友人任せにしうまくはかどらないと友人に不満をおぼえる主人公。そして「結婚すると女は変わるぞ」と吐き捨てる兄。これは同一人物を分裂させたキャラクター造形であり、統合すれば時任謙作になる。伴侶探しを他人任せやら安直な方法(行きずりの女一目惚れ)やらで済まし、結婚後にここが悪いあれが駄目だとぶーぶー文句垂れやがる最低最悪の男。
暗夜行路はたぶん行人のオマージュ、粗悪なモチーフの発展継承作品なのだろう。旅先で少々疲れたくらいで生悟りするふざけた野狐禅も共通している。

「所有という語の奇妙な使用法」のくだりにはシュティルナーの影響がもしかしたらあるのかもしれないが、西洋の新思潮をちょっとつまんで、取り入れてみました程度の、知的粉飾以上のものは感じられない。

「俺が欲しいのは女ではない。母だ!」。兄の、主人公の、そして漱石の叫びは畢竟そんなところに落ち着くのではないだろうか。それが由悠季レムダイクンにまで至る日本男子の普遍的感情であるのだとしたら、この小説はそういう病理を剔抉したという点においてやはり名作という事になるであろうか。

主人公は有楽町の設計事務所に勤める身だろうに、なんで期限も定めずふらふら長期旅行してられるのか。

以上、作品について文句ばかり言いましたが、面白いなあと思ったところもありました。

行人の感想、その2。 http://shoujinonaiie.blogspot.jp/2013/04/blog-post_23.html

* * *

キンドル版青空文庫で読んだら当然巻末に解説はない。wikiで作品についてあたったら初出とあらすじしか書いてないのには少々唖然とした。
古典にはやはり作品に見合った専門家の解説がついてないと寂しい。カネ出しても紙の文庫で読んだほうがやはり読書の満足度は高いだろう。
キンドルペーパーホワイトの試験も併せあえて長編小説を読んでみたが、やはり紙の読書の方に一日の長があるように思う。




コメント

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