大傑作だ! とても面白かった。読んでよかった、と心から思える作品だ。
伊集院さんが馬鹿力で褒めてたのでウィッシュリストには入れてあった。それが「99円ですよ」とアマゾンのAIが気ィ効かせてサジェストしてくれたんで一巻を買ってみたらまあ面白い!
タイムスリップものの持つクリシェ、展開のもたつきがない。西条は「なぜ」を考えない。速やかに所与の現実を受け入れどう生きるかだけに集中する。偶然出くわした漫画家志望の若者を口車に乗せる。ただ自分が安全に生きんがために。
と同時にそのようなエゴイズムの塊たる自分に引け目がなくもない。「そんな目で見るな!」と北川に懇願する。弟子に、若者に尊敬されたい、軽蔑されたくないという一片の誠実もあるのだ。そこらへんのさじ加減が絶妙で身につまされるほどだ。
この絵柄でまさか萌える美女が出現するとも思わなかった。望月さんの色香に俺はすっかりヤられてしまった。元クリーニング屋、というのがまたリアル。上り調子の業界、時代の雰囲気がこういう細かな描写で説得力を持つ。いましろ氏は相当に漫画巧者だ。
登場人物皆が「生きている」。アシの富田くんなんかも俺は大好きだ。富田くんがどんな人物か、作者は手を抜かず生き生きとトリビアルに(そうは見せず)描いている。北川の性病描写も。「それがいったい本筋とどう絡むんだ?」という描写の積み重ねからわかるのは作者の作劇思想だ。つまり、登場人物は書き割りではないし、ストーリーなるものを前に進めるためのこさえ物でもない。北川が性病にかかった(と思い込む)ことも富田くんの料理がうまいのもセックスしないのも西条の都合とはなにひとつ関係がない。それぞれがそれぞれの都合で生きている。その当たり前を作品世界に構築できる作家は実は稀有なのではないか。
まだ連載中? かどうかも知らぬまま読み進めていたから「え、これで終わり?」という驚きもあった。掲載誌の廃刊? しかしここでぶつりと終わるのもまた正解のような気もする。西条を過去に送り込んだ四角い箱(の主)もまた、西条の都合などとは無関係。
いったいなんだったのか? なぜそんなことをしたのか? そしてなぜ戻したのか?
わからない、わからないが、ふたつの世界で皆が、少なくとも三人が、西条も北川も富田も、とりあえずはハッピーエンドに軟着陸できたことを俺は我が事のように喜んだ。それくらいに三人を好きになれた。そういう作品だ。
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