吹き替え翻訳の直訳丸出しにうんざりし貧乏人小馬鹿にし描写にうんざりし殺したいガキどもにうんざりし踊ったり歌ったりのくどい演出にうんざりし「俺は最後まで観ること能わぬだらう」と諦めかけていたが、途中から監督の意図がわかりなんとか見通すことができた。よかったよかった。面白かった。 ウィリーウォンカがシリアルキラー、必殺仕事人だとわかってから俄然面白くなる。彼は行儀の悪いクソガキどもをあの手この手で楽しみながら扼殺していく猟奇変質者(バットマンの文脈で言えば正義の味方)だったのだ。こども向けのくっだらねえファンタジー映画だと勝手に決めつけていた不明を恥ずるものである。 少女陵辱シーンまで出現するに及んではバートン卿の覚悟に圧倒されてしまった。これは無難なおこちゃま映画で金儲けといった興行師の仕事ではない。世界を敵に回すことを辞さず映画への愛を貫く地下生活者の手記だ。 それも、自身を等閑視できるに至ったひとの。フロイト流長椅子サイコアナリシスで分析者を俟たずに自己分析を完了させたウォンカの姿は「自身を知る」監督の自画像に他ならない。 家族との和解は世界との和解であり、また異常者として生きることの諦念であり宣言でもある。このような者として世界の中に座を占める。そういう立ち位置を監督は艱難辛苦の果てに見出したのだ。チョコレート工場の彷徨はそのままバートンがたどった魂の煉獄、その記録である。 豊富な映画的参照に基づくギャグはその基礎的教養を欠く俺の前に殆ど無力であったが、使い古された常套的な演出を嘲笑う「世界の国旗」だけはちょっと笑った。