10年経つとさすがに絵柄に変化がある。看護婦……もとい、看護師さんがやや萌え顔。
「でも先生言ってましたよ。いい体してるって」
「え?」
「なにかスポーツやってらっしゃるんですか?」
「いや。今は軽いトレーニングぐらいですが田舎にいた頃に少し…」
「え、何を?」
「育ての親だった祖父が古武道の館長でしてね。高校くらいまで毎晩、こってり絞られたもんです」
この僅かな会話の中に、これまでなにかの偶然にたまさか開示されるしかなかったゴローさんの基本情報が実は恐ろしく濃密に語られている。解き明かされるたくさんの謎。大食いなのに太らない理由。暴力を苦もなく組み伏せる強さのわけ。幼少期の事情。強いられた孤独が強いた孤食の嗜好。女性にモテる男なのに絶対に一線を越えさせない強固なATフィールドの所以。
石神井公園でくつろぐ姿もある種伏線であったことがわかる。なぜ懐かしむのか。過去を懐かしんでいるからか。否。そのような過去が、親子の行楽という記憶がないからこそ、ゴローさんはそれを無限遠の到達できない理想として懐かしんでいたのではないか。
古武道はゴローさんに暴力をはねのける力と逞しい肉体を与えたけれども、しつけの厳しい祖父との食事はゴローさんにとって苦痛なのではなかったか。大山町で瓦割りの写真に顔をしかめたのも、粗暴な主人を組み伏せたのも、口うるさい武道家であった祖父への嫌悪がその背景にあるのではないか。などと、想像を逞しくする。
石神井公園でくつろぐ姿もある種伏線であったことがわかる。なぜ懐かしむのか。過去を懐かしんでいるからか。否。そのような過去が、親子の行楽という記憶がないからこそ、ゴローさんはそれを無限遠の到達できない理想として懐かしんでいたのではないか。
古武道はゴローさんに暴力をはねのける力と逞しい肉体を与えたけれども、しつけの厳しい祖父との食事はゴローさんにとって苦痛なのではなかったか。大山町で瓦割りの写真に顔をしかめたのも、粗暴な主人を組み伏せたのも、口うるさい武道家であった祖父への嫌悪がその背景にあるのではないか。などと、想像を逞しくする。
コメント
コメントを投稿