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 ボーンスプレマシーのメイキングをいま頃観ている。
 ボーンという作品が、ジェイソンボーンというキャラクターがなぜこんなに魅力的なのか、非常に秀逸、的確に語られている箇所があった。

「これは学費に関するデモ行進でよくある光景だ。学生たちと組織の人間の世界の違いを際立たせたかった。
 ボーンは学生の中に紛れる。彼らはボーンの味方だ。そしてもちろん彼らはCIAにとって敵となる。
 ボーンの物語の世界を描く上で非常に重要な相関関係だと思う。それは転覆しかけた我々の世界に通じる。
 政府機関は全く信用できない。ボーンが答えを求めるように我々も答えを求める。
 その答えは雑踏にある。
 ボーンは政府機関の反逆者であり、それが彼をユニークなヒーローにしている。
 ハリウッド映画ではかなり珍しいことだ。
 ボンドとボーンを比較すると面白い。
 二人の表面上のキャラクターはよく似ている。
 二人の生みの親は冷戦を描いた作家だ。
 ボンドはイアンフレミング、ボーンはロバートラドラム。ふたりともスパイだ。
 だが映画のボーンはボンドとは全く違う。
 ボンドは政府機関に組み込まれており、自身がスパイであることを楽しんでいる。
 良心の呵責なしに人を殺し、ときにはそれを楽しむこともある。
 国を愛し、女性を手玉に取る。
 彼は最新兵器を駆使して危機から脱する。
 車の後部に取り付けた砲塔から弾を発射したりね。最新技術に救われる。
 彼は、最後は必ず政府機関を守り、それに何の疑いも持っていない。
 ボーンは彼とは全く違う。
 政府機関から脱却したボーンは彼らを全く信じていない。
 殺しなどしたいと思っていない。女性を手玉に取らない。
 疑いと混乱で破滅しかかっている。必死に答えを求めている。
 それが彼をいまの時代のヒーローにした。
 だからこそボーンのキャラクターはいまの時代に説得力を持つんだ。

 いまある問題、今後出てくる問題は、ボンドには対処できないとわたしは思う。
「ボーン・スプレマシー」を観た観客は、ボーンの物語の続きをもっと見たくなる。
 様々な物語が考えられるからだ。混乱と脅威の世界で答えを求めるボーンを見ればね。
 我々はまさにそんな世界にいる。
 我々は混乱した世の中でうろたえている。
 面白いことにこの映画の公開は"9・11委員会"の公聴会の最中だった。
 イラク戦争の是非が問われる中、アメリカや英国の政府機関、特に諜報機関は非常に重要な次の問題について明確な答えを出していない。
"何故戦争を始めたのか"
 彼らの曖昧な態度によって大きな疑惑の波がアメリカとわたしの母国である英国に押し寄せた。
 それはいまでも漂い続けている。
 そんな中人々は土曜の夜に映画館でボーンを目にする。
 彼は政府機関から脱却し彼らを信じず答えを求める。
 それは面白いエンターテイメントではある。
 だが、マットの演じるボーンのキャラクターを通じていまの世の中が見える。
 彼には我々が共鳴し感情移入できる何かがある。
 だから観客は彼についていく。
 そして彼の求めるものを一緒に探す。
 観客は彼の歩く路上にいる。
 だからボーンは熱心に支持されるんだろう」

 的確なのも当然で、監督ポールグリーングラス自身のオーディオコメンタリーである。そういう映画にしたくて、そのようにつくり、そしてそれに見事に成功した。



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