本来伝えるべき情報を指しているのは、第一のメタファーの上に乗った第二のメタファーということになる。
二層メタファーが示す意味がこれでまちがいないことを追認するために、もうひとつ、メタファーを支える一層メタファーがつけ加えられている。
一作目で三体の物語はフラクタル構造であることが示唆された。であれば、雲天明の物語と同じ構造が雲天明の物語を語る物語に存在する構成となっていても不思議ではない。
程心とガンイーファンの愛の巣もまたあまりにひとつの童話然としていることに気付かないか。
ここに閉じこもって日々を穏やかにひっそりやり過ごせば僕らは新しい世で自由な生を謳歌できる。
これは旧弊に窒息しそうな統制国家から亡命した知識人のアナロジーにも見えないか。彼らは祖国を見限り、崩壊後の新時代に期待を寄せている。
だが、新時代の到来を安全地帯から座して待ち滑り込むことは果たして可能なのか? 物理的に。或いは倫理的に。
そもそも自身がそこに身を投じ関与しなければ、新時代そのものを期待できないとしたら? それは思い上がりか? 自己の過大評価か?
宇宙の総質量とビッグクランチに仮託して知識人、力ある者、或いは人間すべてのあるべき倫理がそこに語られているようにも思える。
長大なヴォリュームで語られたエピソード、思想、アイディアは他にも枚挙にいとまがないのだが、以下簡略にまとめておきたい。
残念だった点:
1. 史強の不在
残念です。また会いたかった。まあ、史強の代わりがトマスウェイドなんだろうね。
トマスウェイドはいいキャラクターだったね。凶暴な極悪人なのになぜか律儀に約束は守る。これもなんか理由があんだろうね(劉先生が作ってあるに違いない設定を知りたい)。
2.木星のスペースコロニー
必要だったんですかね、あのコロニーめぐり。三体読書中珍しく「飽きた」。結構退屈。
誤発令シャトル奪い合い事件なんかもそう。要るかな? って思った(ただし、アイエイエイにも最後に罰を与える、その口実として要る段かなとは思う。程心が雲天明の運命を最初何も考えず踏みにじった、その罰を受けねばならぬのと同じに)。
3. 終盤、ああいう運命に持ってく手付きがやや乱暴、作為的に見えた。デスラインが危険なら遠くから認めた瞬間踵を返して帰ればいいし、アイエイエイをひとり残したのも不自然。
良かった点:
1. 光速ドライブ
これに尽きる。目からうろこ。現有技術で人類は宇宙船の光速加速が可能なんです! 本書いちばんの大ネタ。
2. 四次元。お墓。
お墓さんが「それ欲しい。くれ」っつって関一帆(ガンイーファン)が閉鎖系金魚鉢を放ってあげる場面。なんとも寂しくせつなくしみじみとした詩情が漂う。
これ絶対あとで生きてくる伏線だと思ったんだけどな。人類がいよいよ困った時に墓が助けてくれんじゃないか、墓の恩返しがあるんじゃないかと。
実際終わり近くに似たあれが出てくる。劉慈欣はなんかもっと膨らましてあれするつもりだったけどなんか「もういいか」ってほっぽっちゃったんじゃないか、とか勝手に想像する。
3. 程心雲天明会談直後遮蔽室で何度も同じ話させられ調書取られるの、完全に犯罪者に対する取り調べでちょっとオモロかった。
(感想、終わり)
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