これはね、いいですよ。
玄田哲章以外のヴァージョンがあるだろうことは以前から気づいていました。
VHSで録ってもう繰り返し見たやつ。なんでこんな他愛もない話飽きもせず何度も何度も観るのか自分でもわからない。それを誤って消してしまったあと、日曜洋画劇場玄田哲章吹き替えで観てみるとどうも自分が慣れ親しんだヤツではない。
今回の屋良有作(TBS、水曜ロードショー荻昌弘)版同録は偉業ですね。これでしたよ。自分が最初に親しんだコマンドーは。
シャツェネガの声はやはり玄田哲章フィックスで正しい選択だと思うけど、この屋良ヴァージョンはね、翻訳がいいんですよ。翻訳の遊びがいい。意訳を思いっきり自由に楽しんでいる。屋良有作さんがそれを伸び伸びと快演している。
最初のサンドイッチのシーン、「そうかもしれん!」って、なんか吐き捨てるように言うのがいいんですよ、屋良さんのは。
"Remember Sully I promised to kill you last?"
"That's right, Matrix. You did."
"I lied."
"You la laaaaaaied...."
「お前は最後に殺すと約束したな」
「そうだ大佐、た、助けて」
「あれは嘘だ」
パッ。
「アーーーーーーーー」
「お前は最後に殺すと云ったのを覚えてるか?」
「覚えてるともそう云ったぞ」
「ありゃ嘘だ」
パッ。
「アーーーーーーーー」
やっぱこのね、屋良有作さんの「ありゃ嘘だ」がいいんですよ。
"Remember Sully I promised to kill you last?"
"That's right, Matrix. You did."
"I lied."
"You la laaaaaaied...."
[original script]
「お前は最後に殺すと約束したな」
「そうだ大佐、た、助けて」
「あれは嘘だ」
パッ。
「アーーーーーーーー」
[テレビ朝日「日曜洋画劇場」昭和64年1月1日放送 翻訳、平田勝茂]
「お前は最後に殺すと云ったのを覚えてるか?」
「覚えてるともそう云ったぞ」
「ありゃ嘘だ」
パッ。
「アーーーーーーーー」
[TBS「ザ・ロードショー」昭和62年10月6日放送 台本、宇津木道子]
やっぱこのね、屋良有作さんの「ありゃ嘘だ」がいいんですよ。
同梱の解説書がまた充実しててですね、自分がかねてから抱いていた「なんで最近の吹き替えってダメなの? なんで機械翻訳みたいな直訳、教科書言葉なの? 普通こんな喋り方しねえよ、な棒読み文語ですます調なの?」の理由が明晰に記されている。自分の予想通りのところもあったし、予想を裏切る意外な真相もそこにはあった。
平田:…好きだったのは福田恆存。あの方のシェイクスピア翻訳は好きでしたね。セリフはある意味"流れ"だと思うんです。…明治時代の作家とか、わりあい正統的なものが好きなんですよ。…
大きい作品ですとか、劇場公開版になってくると、バック・トランスレーションを求められることがあるんです。ボクがやった作品の翻訳を、日本語のわかるあちらの人が今度は英語にして本国の監督なりプロデューサーなりが見るわけです。すると「俺が作っているセリフと意味が違う」となって…
「英文解釈」と「翻訳」は違うんですよね。ただ直訳するんじゃなくて、「翻る」のが翻訳なんです。そうじゃなきゃ「翻訳」ではないんです。
吹替黄金時代の土台には福田恆存があった! これは意外であると同時に「なるほどなあ。そういうもんかもしれないなあ」と逆に得心できるところでもある。
こなれた俗語、自然な口語体を誰が駆使できるかと言えば、それはやはり日本語の熟達者なのである。
おれは逆に左翼崩れが糊口をしのぐため不本意ながら手を染めたある種アウトローの、ルサンチマンを抱えたイイ仕事、それが吹替黄金期の梁山泊だったのではないかと勝手に想像を巡らしていたのだが、あにはからんや事態はまったく逆、最も正統的な日本語の、日本文学、英米文学の教養を備えたアカデミックな伝統の流れに吹替黄金期は位置していたのである。
うん。なんかわかる話だ。
特典ディスクがわざわざ1枚あって、これがまたいいのです。製作者たちの「いい仕事したぜ」な誇らしげな笑顔。こういう笑顔を「ドヤ顔」言っておとしめちゃいけません。誇るに足る仕事であり、コマンドーの成功はフロックではなく周到な計算、緻密な準備の産物だったのですから。
なんで面白いかって、もういちばんの理由はこれでしょ。プロデューサー、ジョエルシルバー。
こなれた俗語、自然な口語体を誰が駆使できるかと言えば、それはやはり日本語の熟達者なのである。
おれは逆に左翼崩れが糊口をしのぐため不本意ながら手を染めたある種アウトローの、ルサンチマンを抱えたイイ仕事、それが吹替黄金期の梁山泊だったのではないかと勝手に想像を巡らしていたのだが、あにはからんや事態はまったく逆、最も正統的な日本語の、日本文学、英米文学の教養を備えたアカデミックな伝統の流れに吹替黄金期は位置していたのである。
うん。なんかわかる話だ。
特典ディスクがわざわざ1枚あって、これがまたいいのです。製作者たちの「いい仕事したぜ」な誇らしげな笑顔。こういう笑顔を「ドヤ顔」言っておとしめちゃいけません。誇るに足る仕事であり、コマンドーの成功はフロックではなく周到な計算、緻密な準備の産物だったのですから。
なんで面白いかって、もういちばんの理由はこれでしょ。プロデューサー、ジョエルシルバー。
そしてなにがいちばんビックリって、ヒロインのレイドーンチョン、加齢後のほうがかわいらしくなってるという。
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