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行人、補遺。

面白いところもありました。
男子二人が落ち会う約束をした旅。あれ、実はブロークバック描写なんじゃないでしょうか。なんかいろいろ不自然というか。「なんだお前、じゃあ、山に行かないつもりか!」とか怒りだしたり。行きたきゃ一人で行けよ、と口の端から出かけた瞬間ハッ! と俺も気づいたわけです。字義通りの意味じゃないんだと。隠語なんだと。符牒だと。いや、実際山には登るんだろうけど、プラスまあそういうことなわけです。そう考えたほうがむしろ登場人物たちの妙な会話、感情の動きが不思議に得心できる。
落ち合う、っていうのがまたクサいわけです。はじめから二人一緒だとバレるのでわざとずらしてるというか。密会というか。
公然の秘密というか。当時の日本において同性が長期に旅行するというのはつまりそういうことなんだと。周りも知ってるんだけど「あらご旅行。フフフ。ごゆっくり」と知らないふりを装ったり。含み笑いしたり。いや、確証はないんですけど。
芭蕉とか膝栗毛の江戸の伝統が明治期になお残っているのは当然で、それが西洋文明の導入とともにタブー視されかかる端境期にある日本男児の苦悩。もしかしたら裏テーマとしてそういうものがあるんじゃないか、と。正常なのは男女の愛、それ以外は異常、という輸入倫理と日本の古層、その狭間で苦しむ近代知識人の姿、と捉えると、作品理解に補助線が引けるわけです。
友人との旅で始まった物語が、最後は兄とその友人との旅で締めくくられるのもその傍証ではないでしょうか。どちらも男同士水入らずの旅。
既に石原豪人氏によって「坊っちゃんはホモ小説だ!」という実証研究はなされているわけです。坊っちゃん、行人のみならず、漱石作品全てをその視点から読みなおしてみるとまたいろんな発見が期待できるのではないでしょうか。

行人の感想、その1。http://shoujinonaiie.blogspot.jp/2013/01/blog-post_24.html




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