あれだけ面白かった第一部なのである。映画の多くがそうであるように第二部なんて惰性の、水で薄めた手抜きに多少なりとも堕しているのを予感しながら読んだらどうだこれは。
むしろ「作品の基本設定はもう説明したから、こっからは本腰入れて行くわよ!」と。ブーストもブースト、ついてこれない読者は全員置いてく。ギア全開だ。
まさに巻を措く能わず。読むことそれ自体が快感。永遠に続いて欲しい読書体験。こんなの久しぶりのことだ。いやもしかしたら初めてかもしれない。そして、その内容はと言えば……
「俺地球の王になり理想の嫁を徴発しちゃいました!」。まさかのラノベ展開。電車男。エルメスさん。しかし劉慈欣(りゅうじきん、リウツーシン)の手ににかかればラノベもハルキの香気を放つ。
あの作品も登場。でもそうだよね。劉慈欣の目配せは浩瀚だ。日本SFの傑作も当然押さえている(テーマも思想性もおそらくは親しいものがある)。
面壁者四人のうちひとりはこんなふうに国連から許可された特権を全部私生活の充実にぶっ込んでる(つまり役立たず)ので、ここに本巻の三体問題が生じる。絶対権力を持つ三人の王。それは存在自体が背理なのだ。
史強御大(おんたい)。そして丁儀(ディンイー)。読者としては懐かしい知人に再会した嬉しさである。そして抜け抜けと「冬眠」! ダニエルクレイグが「無線だ。」言ったあれに通ずるもんがある。SFの一番ベタなアイテムが、使いようで立派に蘇生するのだ。
「しかし羅輯はまるで無頓着だ。なにがあろうと気にせずに、のんびりかまえている。なあ、ケントさん、それが簡単なことだと思うか? あれは大物の風格ってやつだ。大事をなす人間が必ず備えている資質なんだよ。あんたやおれのような人間には、大きなことはなしとげられない」
然りと思いまた否と思う。どう考えても史強御大だって面壁者にふさわしい。総司令官の器と能力を持つ傑物は彼だ。
「わかった。じゃあ調べとくわ」っちゅて別にデータベースもなんも使わず「あいつでいいかァ」ちゅて親戚の、姪っ子だかなんだか当てがうテキトーっぷりがいい。すごく史強らしい。誰かの理想の彼女なんて、本人の思い込みにかかわらず案外どこにでもいる普通の女の子なんだよね。
そういう世故に長けている。そんなもんだよ、と経験でわかっている。大史(ダーシー)、やはり大人(ターレン、たいじん)である。
エヴァンスと三体の冒頭の会話がどうにもユーモラス、ほとんどギャグ、漫才で楽しい。
んでこれが実は下巻、クライマックスの伏線なんだよねえ。
タイラーの破壁人造型もうまいよねえ。こう来たかと。予想の正反対にブラフを振っといての。
白蓉(バイロン)はどうして羅輯(ルオジー)にああいう提案をしたんだろうね。恋が終わってしまうとわかっているのに。
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