検察は、無罪を求める異例の意見を述べました。 審理は30分ほどで終わり、来月7日に無罪の判決が言い渡されて確定することになりました。
…警視庁は、真犯人の特定に向けて再捜査する方針を固めました。
東電社員殺害事件再審 検察“マイナリさん無罪に” 10月29日 10時52分 http://nhk.jp/N44I5UKp
「再審ってこれありえないと思いますけどね」
「もう間違いなく犯人であると自信持ってますから」
警視庁元捜査一課長平田冨峰(フホー)の発言 on 120608クローズアップ現代
ーー傍聴席を見てください。あなたを裁判所まで送ってくれた警察官はそのなかにいますか。
丸井が小柄な体をめぐらして後をふり返り、「はい」と答えると、検察側から「異議あり」の鋭い声がとんだ。傍聴席の最後尾に座っていた警察官とおぼしき三人の男が、頬をポッと赤らめ、バツの悪そうな顔をした。
ーー警察官から法廷に立つ前、なにかいわれたか。
「憶えていないことは憶えていないといえばいい、と言われました」
私はあいた口がふさがらなかった。警察官の送り迎えつきの証人など日本の裁判史上前代未聞のことであろう。…
家を作ることだけを生きがいにして異郷の地で働いてきたゴビンダが、ふと人肌が恋しくなることがあったとしても不思議ではない。その時魔が差したように彼の前に現れたのが、クラブなど風俗生活を遍歴した果てに、円山町に立ち、客を直引きするほど転落した東電OLの渡辺泰子だった。
私は安い金でセックスのできる泰子と、一度の情交をしたゴビンダを、責める気持ちにはなれなかった。正直に言えば、泰子とセックスしたゴビンダに急に親近感さえ感じ、むしろ心が安堵しないでもなかった。
それにしても、と思う。警察がゴビンダを最悪では死刑もありうる強盗殺人の真犯人と見て逮捕したのは、泰子とたった一度セックスをしたということが、たぶん最大の心証となっている。…
予想していたことではあったが、トップリースは案の定、もぬけの殻だった。ドアには鍵がかかり、真っ暗な部屋の中には机と椅子が放置されていた。わたしがトップリースについて書いた「新潮45」の平成十年二月号が発売された同年の一月中旬直後、たぶん警察の通告で夜逃げ同然にして店をたたんだに違いない。私はガランとしたトップリースの部屋を眺めながら、この事件の背後に拡がる権力の闇の深さをあらためて感じないわけにはいかなかった。
「リラは、警察による連日の取り調べにより、従前働いていたチャールストン・カフェを解雇されてしまっていました。取調官は、そのようなリラの経済的苦境につけ込み、四月十七日、リラに仕事を斡旋しています。しかも、その仕事は、ほとんど座っているだけで二時間三千円も稼げるというものでした。更に、リラは警察から、無償の住居さえも与えられているのです」
警察がリラに斡旋した職場が、東京・神田駅付近にあるトップリースというサラ金であることは、リラがネパールで私にくれた同社の給与明細から明らかだった。トップリースは私が訪ねてから間もなく、なぜか、忽然と姿を消していた。
『東電OL殺人事件』 佐野眞一、2000年。
* * *
自信のある態度ではない。証人の送り迎えやらトップリースやらの裏工作は「犯人ではないだろう人間を無理無理に犯人に仕立て上げるための力技、無理筋」だとしか思えない。自信のない者たちの振舞いだ。
それとも、あれだろうか。「真犯人の検挙を阻止するために警察の総力、資金力をあげて一人の罪人をでっちあげる」ということにフホーとしては自信を持っている、似たようなことは過去にもう何度もやって慣れているから。そういう意味で警視庁元捜査一課長は「自信」という言葉を口にしたのだろうか。
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