判決の言い渡しは午前10時半から始まり、東京高裁の小川正持裁判長は冒頭でマイナリさんに無罪を言い渡しました。
「再審ってこれありえないと思いますけどね」
「もう間違いなく犯人であると自信持ってますから」
マイナリさんは、支援者を通じてみずから日本語で書いたコメントを出しました。
この中では「うれしいけれどくやしいきもちもあります」と無罪判決に対する感想を記しています。みずから書いたコメントでは、警察と検察、それに裁判所に対して「どうして私が15年かんもくるしまなければならなかったのか、よくかんがえてわるいところをなおして下さい。無実のものがけいむしょに入れられるのは私でさいごにして下さい」と訴えています。
ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審無罪判決を受け、東京高検の青沼隆之次席検事は7日、取材に対し、「真相解明がなされていない。冤罪(えんざい)と言うのは時期尚早だ」と述べ、マイナリさんへの直接の謝罪は「現段階では考えていない」とした。
判決直後の上訴権放棄については、「結果的に15年間の長きにわたって拘束した重みがある。不安定な地位はあまりにも酷だ」と説明。一審無罪への控訴は不当だったとする弁護側の訴えには、「当時の証拠関係では間違いではなかった」と反論した。
別の検察幹部は「真犯人を逮捕して起訴し、マイナリさんは冤罪だと言えればいいのだが」と語り、今後の再捜査は困難との見通しを示した。
無罪判決を出した裁判所に対し再勾留請求を出すこと自体、自家撞着であり、ひいては法の自殺行為ともなりかねない。こんな手口がもしまかり通るならば、再勾留請求を連発することによって、被告を半永久的に拘置所内に収監しておくことも可能となる。
ここで注目すべきことは、前の判断と後の判断を下した延べ六人の裁判官の中に、たった一人だけ同一の人物がいたことである。わずか一ヶ月足らずのうちに全く正反対の決定を下したこの裁判官は村木保裕といい、ゴビンダに無罪判決が出た平成十二年四月、山口地裁や津地裁などを経て、東京高裁に赴任したばかりだった。
村木問題についてはあとで詳しく述べる。ここでもう一度見て置かなければならないことは、ゴビンダの再勾留を求める検察側の異常とも思える執着ぶりである。検察はまず無罪判決を出した東京地裁に対し、矢の催促で早期記録送付を要求し、この結果、原審記録は判決後わずか二週間あまりで、高裁に送付となった。強盗殺人容疑の重大事件でこれほど早い送付措置がとられたのはまったく異例のことである。
刑事訴訟法の三四五条には、無罪判決が言い渡された場合、勾留状は失効すると明記されている。再勾留を職権で決定した東京高裁第四刑事部の判断は、これを完全に無視するものだった。…
高木判決の裏にある逆バネを指摘した弁護士は、高木の心性を支配しているのは、かつて自分が所属した左翼陣営や人権派に対する近親憎悪と隣りあった暗い情念などではなく、つまらない官僚的発想だと思う、ともいった。
「ゴビンダ裁判で一審判決を支持して無罪判決を出したら、すぐに国家賠償請求問題や一審無罪にもかかわらず再勾留を決定したのはなぜか、という批判が自分にふりかかってくる。定年間近の彼はそれを避けたかったがために、あんなとんでもない判決を出したんだろう。それにしてもゴビンダは木っ端役人の典型のような裁判官に当たってしまって、本当に気の毒だ」
村木は、前述したように、東電OL殺人事件に深く関与している。東京高裁判事の村木が少女売春容疑で逮捕されたのを知った時、私は殺された東電OL渡辺泰子の、何事も本質を暴露せずにはおかなまなざしの強さに、あらためて震撼させられるような思いだった。泰子は、生きていればいま被告席で身をちぢませている村木と同学年の四十四歳だった。
「ストレスだとか何だとか弁解がましいことをいっているが、要するに最後までわからないのは、どうして十四歳の女子中学生とセックスしなければならなかったかだ。言葉が悪いが、単なるロリコンか、スケベおやじじゃなかったのか」
裁判長の山室惠は法廷ではめったに聞けない伝法な口調で、さらにつづけた。
「奥さんの妊娠をことし二月に知ったというが、それはブレーキにならなかったのか。君のやったことは、日本の司法の歴史の中でどれだけとんでもないことなのか、わかっているのか。まさか裁判官がこんな犯罪で裁判官を裁くとは思っても見なかった」
火を噴くような山室の鋭い舌鋒に、司法研修の十二期後輩にあたる村木は首をうなだれたまま、何ひとつまともに答えることができなかった。
二人に共通していたのは、己に課した負荷の高さからくる歪んだ幼児性である。高校時代から法曹界を目指していた村木は、その幼い夢が実現したとき、それが自分を破壊させる恐ろしい世界でもあるという成熟した認識をもつべきだった。彼の幼さは、自分の実存を根底から揺るがす危機が迫った時、その空洞を補填するため自分のいうことを聞いてくれそうな少女とのセックスを安易に求めた行為そのものに現れている。
セックスが他者との間をつなぐコミュニケーションの役割を果たさなかったという意味では、泰子も同じだった。泰子はベッドの会話にまったくふさわしからざる難解な経済論議を客にふっかけるのが常だった。
東電事件再審 マイナリさんに無罪判決 NHKニュース 11月7日 10時43分
「再審ってこれありえないと思いますけどね」
「もう間違いなく犯人であると自信持ってますから」
警視庁元捜査一課長平田冨峰(フホー)の発言 on 120608 クローズアップ現代
マイナリさんは、支援者を通じてみずから日本語で書いたコメントを出しました。
この中では「うれしいけれどくやしいきもちもあります」と無罪判決に対する感想を記しています。みずから書いたコメントでは、警察と検察、それに裁判所に対して「どうして私が15年かんもくるしまなければならなかったのか、よくかんがえてわるいところをなおして下さい。無実のものがけいむしょに入れられるのは私でさいごにして下さい」と訴えています。
マイナリさん 悔しさも NHKニュース 11月7日 13時58分
ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審無罪判決を受け、東京高検の青沼隆之次席検事は7日、取材に対し、「真相解明がなされていない。冤罪(えんざい)と言うのは時期尚早だ」と述べ、マイナリさんへの直接の謝罪は「現段階では考えていない」とした。
判決直後の上訴権放棄については、「結果的に15年間の長きにわたって拘束した重みがある。不安定な地位はあまりにも酷だ」と説明。一審無罪への控訴は不当だったとする弁護側の訴えには、「当時の証拠関係では間違いではなかった」と反論した。
別の検察幹部は「真犯人を逮捕して起訴し、マイナリさんは冤罪だと言えればいいのだが」と語り、今後の再捜査は困難との見通しを示した。
「冤罪」と認めず=直接謝罪も否定―再審無罪に東京高検 時事通信 11月7日(水)20時22分配信
無罪判決を出した裁判所に対し再勾留請求を出すこと自体、自家撞着であり、ひいては法の自殺行為ともなりかねない。こんな手口がもしまかり通るならば、再勾留請求を連発することによって、被告を半永久的に拘置所内に収監しておくことも可能となる。
ここで注目すべきことは、前の判断と後の判断を下した延べ六人の裁判官の中に、たった一人だけ同一の人物がいたことである。わずか一ヶ月足らずのうちに全く正反対の決定を下したこの裁判官は村木保裕といい、ゴビンダに無罪判決が出た平成十二年四月、山口地裁や津地裁などを経て、東京高裁に赴任したばかりだった。
村木問題についてはあとで詳しく述べる。ここでもう一度見て置かなければならないことは、ゴビンダの再勾留を求める検察側の異常とも思える執着ぶりである。検察はまず無罪判決を出した東京地裁に対し、矢の催促で早期記録送付を要求し、この結果、原審記録は判決後わずか二週間あまりで、高裁に送付となった。強盗殺人容疑の重大事件でこれほど早い送付措置がとられたのはまったく異例のことである。
刑事訴訟法の三四五条には、無罪判決が言い渡された場合、勾留状は失効すると明記されている。再勾留を職権で決定した東京高裁第四刑事部の判断は、これを完全に無視するものだった。…
高木判決の裏にある逆バネを指摘した弁護士は、高木の心性を支配しているのは、かつて自分が所属した左翼陣営や人権派に対する近親憎悪と隣りあった暗い情念などではなく、つまらない官僚的発想だと思う、ともいった。
「ゴビンダ裁判で一審判決を支持して無罪判決を出したら、すぐに国家賠償請求問題や一審無罪にもかかわらず再勾留を決定したのはなぜか、という批判が自分にふりかかってくる。定年間近の彼はそれを避けたかったがために、あんなとんでもない判決を出したんだろう。それにしてもゴビンダは木っ端役人の典型のような裁判官に当たってしまって、本当に気の毒だ」
村木は、前述したように、東電OL殺人事件に深く関与している。東京高裁判事の村木が少女売春容疑で逮捕されたのを知った時、私は殺された東電OL渡辺泰子の、何事も本質を暴露せずにはおかなまなざしの強さに、あらためて震撼させられるような思いだった。泰子は、生きていればいま被告席で身をちぢませている村木と同学年の四十四歳だった。
「ストレスだとか何だとか弁解がましいことをいっているが、要するに最後までわからないのは、どうして十四歳の女子中学生とセックスしなければならなかったかだ。言葉が悪いが、単なるロリコンか、スケベおやじじゃなかったのか」
裁判長の山室惠は法廷ではめったに聞けない伝法な口調で、さらにつづけた。
「奥さんの妊娠をことし二月に知ったというが、それはブレーキにならなかったのか。君のやったことは、日本の司法の歴史の中でどれだけとんでもないことなのか、わかっているのか。まさか裁判官がこんな犯罪で裁判官を裁くとは思っても見なかった」
火を噴くような山室の鋭い舌鋒に、司法研修の十二期後輩にあたる村木は首をうなだれたまま、何ひとつまともに答えることができなかった。
二人に共通していたのは、己に課した負荷の高さからくる歪んだ幼児性である。高校時代から法曹界を目指していた村木は、その幼い夢が実現したとき、それが自分を破壊させる恐ろしい世界でもあるという成熟した認識をもつべきだった。彼の幼さは、自分の実存を根底から揺るがす危機が迫った時、その空洞を補填するため自分のいうことを聞いてくれそうな少女とのセックスを安易に求めた行為そのものに現れている。
セックスが他者との間をつなぐコミュニケーションの役割を果たさなかったという意味では、泰子も同じだった。泰子はベッドの会話にまったくふさわしからざる難解な経済論議を客にふっかけるのが常だった。
『東電OLシンドローム』 佐野眞一、二〇〇一年。
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